会計システムパタンランゲージ

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純化された会計記録

純化された会計記録

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・・・事業報告と会計の分離で述べたように、事業報告から切り離された会計帳簿には、理想的には、報告基準(=会計基準)に依存しない取引記録が記録されるべきです。じっさいにそれを実現するには、従来の会計仕訳を、報告基準フリーな仕訳と、そうでない仕訳に分解しなければなりません。

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伝統的な会計仕訳は、取引事実の記録であるだけでなく報告基準にもとづく評価を含んでいます。このことが会計仕訳の作成業務を複雑にし、事業担当者にとって馴染みにくいものにしています。

設備の売却を例として、このあたりの事情をみてみましょう。

取得原価 1,000千円、減価償却累計額900千円の設備が150千円で売却されたとします。これに対して、多くの簿記のテキストでは、下記のような仕訳が提示されます:

【借】減価償却累計額 900【貸】設備    1,000
   未収入金    150   設備売却益   50

設備売却益50千円は、売却代金150千円と、この設備の「簿価」すなわち未償却の原価100千円(=取得原価1,000-減価償却累計額900)の差です。

この仕訳において、取引事実と言える金額は、未収入金勘定の借方記入150千円のみです。その他の金額は、固定資産の取得原価および減価償却に関する財務報告基準に従って算出されています。すなわち、上記仕訳には、2つの異なるカテゴリーの記録が混じり合っています。

上記の仕訳を、取引記録としての仕訳と、財務報告のための仕訳に分解しましょう:

① 取引記録としての仕訳

【借】未収入金    150【貸】設備売却収入 150

② 事業報告のための仕訳

【借】減価償却累計額 900【貸】設備    1,000
   設備売却原価  100      

上記①「取引記録としての仕訳」からは、設備が150千円で売却され、その対価が後払いされることが容易に見て取れます。この仕訳は、財務報告基準に依存していません。取引記録としての仕訳の各金額は、取引において明示的に示された金額、すなわち取引金額となります。取引金額以外の金額は報告基準にもとづいて算出されたものだからです。

一方、②の「事業報告のための仕訳」では、設備の取得価額と減価償却累計額を取り崩し、設備売却原価に振り替えています。この処理は、固定資産に関する財務報告基準に依存しています。2つの仕訳を合成すれば「設備売却収入」と「設備売却原価」の差額から設備売却益が算出されれます。

このように、会計仕訳は、①事業報告基準に依存しない仕訳と②依存する仕訳に分解することができます。取引記録としては前者で十分です。事業報告には両方の仕訳が必要です。財務報告での減価償却計算の基準が変更された場合に影響を受けるのは、②「事業報告のための仕訳」のみです。

上記の2つの仕訳の区分は、会計記録に対する責任分担にも関係します。取引の実行部署は、上記①の仕訳記録に基本的な責任を負います。一方、財務報告のための仕訳である②に対しては、固定資産会計の担当部署が責任を負います。そして、前者の仕訳記録は会計帳簿に記録され、後者は事業報告簿に記録されます。この帰結として会計帳簿は事実を記録し、事業報告簿は評価を記録することになります。

報告基準への依存性にもとづく仕訳分割
報告基準への依存性にもとづく仕訳分割

他の二分法と同様、事実と評価の二分法においても、その2つを明瞭に区別できるのかという問いを問い得ますが、にもかかわらず、この線引きは我々の思考と実務のために有用です。このように区分することによって、財産管理と事業報告の責任を明瞭に分解できます。

固定資産会計の実務に携わっている方は、ここに示されたような会計処理分担なら現在でも行われているのではないかと感じられるかもしれません。その通りです。賢明な会計実務家は、会計基準(=報告基準)にもとづく判断を事業部門の非会計専門家に委ねることのリスクと困難さを知って、事実の記録行為と会計判断に基づく処理を分離することに意を注いできました。その意味で、当パタンは新機軸ではありません。

当パタンは、むしろ、そうした伝統的知恵が事業報告と会計の分離を進める上でのカギになることを示そうとするものです。

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したがって、

会計仕訳は、報告基準フリーな仕訳と報告基準に依存する仕訳に分解すること。報告基準フリーな仕訳は、取引に係わる事実を描写すること。前者は会計帳簿に記録し、後者は事業報告簿に記録すること。

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会計帳簿の役割から事業報告が除かれることで、会計帳簿の機能と設計について再考の機会がもたらされます―採算管理の場としての勘定(未記述)。報告基準依存の仕訳は、報告基準の違いに応じて複数作成されることがあります―事業報告簿の複線化